WACCとは、Weight Average Cost of Capitalの略語で、加重平均資本コストとも呼ばれます。資本コストとは、企業が資金を調達するためのコストのことで、金額ではなく比率(%)で表されます。
資本コストは、負債資本コストと株主資本コストに分けられ、負債資本コストは借入金や社債などの有利子負債の利子率のことで、株主資本コストは投資家が要求する期待収益率のことを指します。
投資家が要求する期待収益率(株主資本コスト)というのは、投資家がある会社の株を買った時に、最低何%の収益があれば満足するのかを、CAPM(キャップエム)という理論に基づいて計算したものです。負債資本コストのように、企業が実際に外部に支払う費用ではありませんが、株主から調達したお金のコストとしてみなすという考え方です。
この負債資本コストと株主資本コストを有利子負債と株主資本の比率で加重平均したものを加重平均資本コスト(WACC(ワック))といい、予測した将来のキャッシュフローを現在価値に引き直すための割引率として使用します。
WACCの算出方法とは

WACCの算出方法は、上場企業と未上場企業とで異なります。
今回は、上場企業の算出方法についてご説明致します。計算式は以下の通りとなります。
・WACC=[rE × E/(D+E)]+[rD×(1-T) × D/(D+E)]
rE=株主資本コストです。
rD=負債資本コストの残高です。借入金や社債などの金利です。(1-実効税率)を掛けるのは、支払利息が税務上損金になり、節税効果となるためです。
D=有利子負債の額(時価)です。時価が原則ですが、負債の時価は算出が困難なので簿価で代用します。
E=株主資本の額(時価)(株価×発行済み株式数)です。
T=実効税率です。損金算入あれる税額分を考慮した理論上の税負担率です。現在の実効税率は40.87%ですが、便宜上40%で計算するのが一般的です。
ファイナンス理論では、全て時価で考えるのが基本です。しかし、有利子負債のように時価と財務諸表上の簿価とで大きな差がない場合は簿価を使う場合もあります。
例えば、
・有利子負債額:30億円
・株主資本時価(株主時価総額):100億円
・負債資本コスト(負債利子率):4.5%
・株主資本コスト(株主の期待収益率):8.7%
・実効税率:40%
とすると、WACCは次のようになります。
WACC=30億/(30億+100億)×4.5%×(1-0.4)+100億/(30億+100億)×8.7%
=7.3%
以上で、上場企業のWACC算出は終了です。
WACCにも限界がある

WACCにはいくつか欠点があることも事実です。WACCを用いる際に留意しておかなくてはならないWACCの限界について説明します。
企業の資本に対するコストはWACCで求められるとしました。WACCは理論としてはほぼ完璧で、今の所資本コストの算出でWACCに変わるモデルはありません。
しかし、そのWACCにも限界がひとつあります。それはCAPM算出の際に用いるβ(マーケットリスクとの連動性)とリスクプレミアムです。WACCは、企業が将来創出するキャッシュに対する割引率として用いられます。ということは、全ての要素は、企業の未来の状況に基づいて考えなければなりません。
ところが、βとリスクプレミアムについては、過去のデータを参照にして求めているので、時制の不一致が起こってしまうのです。これは、将来のβとリスクプレミアムを理論的に算出することが不可能だからです。これがWACC(CAPM理論)の限界だと言われています。
WACCのもうひとつの限界は、資本構成によって負債コストと株主資本コストを加重平均しているという点です。つまり、WACCによる割引率は、資本構成(負債と株主資本(時価)の割合)が将来に渡って一定であることを前提としているのです。逆に、将来の資本構成が変われば将来のWACCも変えなくてはいけないわけです。
しかし、株主資本の時価(つまり株価)が将来に渡って不明確である以上、一定という前提を立てることや将来のWACCを求めることはほぼ不可能に近いというわけです。
従って、DCF法でWACCを割引率に用いる場合には、将来に渡って資本構成が安定していてWACCの変動が少ないと想定される場合に用いることができます。以上、WACCについての解説でした。