今回の記事では、企業の「危機管理マニュアル」の役割や、マニュアル上で必要な項目、作成するプロセスなどについて解説します。
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企業における危機管理とは
引用元:JTB総合研究所の「考えるプロジェクト」
社会情勢の変化、経済の停滞、労働人口の減少、事故や災害、商品の欠陥、関係者の不祥事など、企業を取り巻く危機(リスク)は多様化の一途をたどっています。
特に、近年はIT技術の進歩と、それに伴うSNSの普及などで、TwitterやFacebookにおいて一般人が「テロ動画」を投稿する事件が多発するなど、大きな社会問題になっています。
企業におけるリスクの回避や、被害を最小限に留めるスピーディな対応など、企業が思わぬ危機(リスク)に的確に対処できるよう、今、「危機管理マニュアル」の整備は不可欠と言っても過言ではありません。「危機管理マニュアル」の作成は、企業のリスクマネジメントの重要なアイテムであり、企業の存続、信用回復のために、広報担当者としてはぜひ備えておくべきでしょう。
危機管理マニュアルとは
危機管理マニュアルとは、企業におけるリスクの発生を未然に防止し、顕在化しまったリスクについては、その被害を最小限に留めるための危機管理に対する一連の行動を記載したマニュアルを言います。
事故や災害、商品の欠陥、SNSにおける誹謗中傷などのトラブルは、ある日、突然発生してします。これらのリスクは予防も大切ですが、発生した後、迅速な対応をしなければ、企業のダメージが増大してしまいます。そんな時、「危機管理マニュアル」があることで、広報担当者はスピーディで且つ適切な対応ができるのです。
危機管理マニュアルを作成する目的
以下、「危機管理マニュアル」を作成する目的を5つの項目でまとめてみました。
①社員に、想定されるリスクの発生や危機管理体制の必要性を理解してもらう。
②危機管理に対する基本的な方針、心構え、具体的な対処法などを明示し、リスク発生時、迅速に且つ適切に対応できるようにする。
③リスク発生時における管理体制の責任者や各部署の役割を事前に明確にしておく。
④リスク発生時における自社のポリシー(考え方)や行動指針を明示し、リスク発生直後から一貫した対応ができるようにする。
⑤リスクの対応に漏れがないか、チェック・確認する。
リスクが顕在化すると、企業は大きなダメージを受けることになります。そのダメージを最小限に留めるために、「前もって対策すること」と、「発生後に対応すること」は、同じくらい重要な作業と言えます。リスク予防のための対応を「リスクマネジメント」、リスク発生後の対応を「クライシスマネジメント」と、分けて定義することもあります。
危機管理マニュアルに必要な6項目
危機管理マニュアルにたくさんの雑多な内容を入れてしまうと、緊急時に情報が多すぎて使いにくいものになってしまいます。それでなくても、リスク発生時は気が動転しています。
必要な内容だけを簡潔に記載して、シンプルで分かりやすいマニュアルにしましょう。ここでは、危機管理マニュアルに必要な6つの項目を解説します。
①目的と基本方針
危機管理マニュアルを作成する必要性と、その役割を明記します。例えば、災害の場合であれば、社員の安全確保や二次災害(被害)の防止、被害を最小限に抑える対処方針などを記載します。
リスクに対処する基本方針についても明記しましょう。例えば、「リスク発生時は本マニュアルに基づき行動する」、「全社員は、会社のコンプライアンスやポリシー(考え方)に則り、法令や条例、内規を遵守し行動する」などの指標です。
②リスクのレベル設定と被害の予測
リスクの種類や発生したタイミングによって、対応する行動や責任者が変わります。そのため、事前に「危機レベル」の設定をしておくことが重要です。「危機レベル」を設定しておくと、発生するリスクによる被害範囲の予測や大まかな被害総額の算出が可能になります。被害総額の算出については、例えば商品に関する欠陥や事故が発生した場合、
●商品の自主回収やリコールを行う
●工場のラインを停止する
●現在進行している取引を停止する
●風評被害を防止する
などの設定に基づき、大まかに算出できます。こうした情報を社内で共有する時は、図や表などを用いて分かりやすく表示することが必要です。
③リスク発生時の取組み
前述した通り、リスク発生直後は、迅速且つ冷静な対応が必要です。初動で失敗しないように、その手順と流れを明記するようにしましょう。次のような項目を盛り込むと、リスク発生時に対処すべき行動が明確になります。
1.リスク発生直後の行動
2.現状把握のための行動
3.対策本部の設置と運営要領
4.対策本部の構成と責任者、
5.対策本部責任者の責務と権限
6.対策本部を設置する場所と備品
7.情報の管理・共有と伝達経路
8.迅速なプレスリリースの発信、記者会見の設定
9.対策本部における会議の議事録
10.各危機レベルに即した行動
11.リスク発生時の企業の指針と広報の施策
12.リスク対応における流れと行動履歴の作成
④ダメージを回復する取組み
リスクが顕在化した後は、企業の社会的な存在感の再構築やイメージ回復など、企業のポジションを以前の状態に戻すことが必要となります。社内外のコミュニケーション手段の再構築や仕事環境とオフィス機能の復旧など、企業のダメージを回復する取り組みを行わなくてはなりません。
⑤リスク発生時における各部署への業務指示
リスクが発生した場合でも、企業は存続を果たすために、最低限行わなければならない業務や取引先に事態を説明する対応が求められます。これだけは維持すべき事業活動と業務をそれぞれの部署で決めておくことが大事です。
⑥緊急連絡網の設置
リスクの種類やレベルごとに、社内の責任者や、投資家、株主、取引先、関係団体など、社外のステークホルダーの連絡先をリスト化し、迅速で円滑な連絡網(コミュニケーションルート)を構築し、連絡漏れなどを防ぎましょう。
危機管理マニュアル作成における3つのポイント
それでは、次に、危機管理マニュアルを作成する時に注意すべき3つのポイントを解説します。
①内容を体系化して、分かりやすく構成する
リスク発生後の対応は時間との勝負になります。すぐにマニュアルの内容を確認して行動が起こせるよう、分かりやすさを意識しながら作成してください。
②企業の実情に合った現実的な内容とする
危機管理マニュアルは、自社が実際に行動できる範囲で作成することが大事です。現実離れした対応案は避け、現実的な内容で構成しましょう。
③最悪の事態を想定して作成する
リスクの洗い出しには、最悪のケースを想定しておくことが重要です。最悪の事態を想定しておけば、想定外のリスクが発生した時でも冷静に対応することができます。
危機管理は事前準備が9割
企業は常に、いつ発生するか分からない様々なリスクにさらされています。危機管理マニュアルには、突然起こる危機発生に迅速に取り組む対応策や組織体制などが記載されますが、同時に、日頃からリスクが発生することのないように注意したり、被害を最小限に抑えるリスクマネジメントを徹底することも重要です。
突然の危機に慌てず冷静に対応できるよう、ぜひ、危機管理マニュアルを作成しておいてください。