少子化の波を受けて、近年、採用市場は年々激化の一途をたどっています。企業の未来や将来性を考えた時、今、改めて採用広報の重要性が再確認されています。企業は、やる気のある優秀な人材を集めるために、これまでのメディア(媒体)や人材募集のツールを中心とした「受動的採用」から、企業自らが積極的に採用活動に打って出る「能動的採用」への変革を迫られています。
今回の記事では、企業の将来を左右すると言っても過言ではない「採用広報」について、その重要性と時代に即したノウハウ、そして、実施する上での大事なポイントをまとめて解説していきたいと思います。
採用広報とは
採用広報とは、社外広報、社内広報と並ぶ、企業における三大広報活動の一つで、企業が自社の情報を求職者に発信することによって、求職者に自社を就職先として選んでもらい応募行動につなげるための業務です。採用広報は自社で働くことの利点(メリット)や働いた時の充実感(イメージ)を求職者に伝え、自社を選択し応募してもらう「きっかけ」を醸成するものです。
前述の通り、少子化などによる労働人口の減少という社会的背景を受けて、近年は求職者に有利な売り手市場になってきており、また、Webなどによる求人サイトの乱立や、その他人材紹介系サービスの参入によりリクルート情報が増大しています。しかしながら、今はもう、求人情報を関連ツール(機関・媒体)に掲載して応募を待つという従来の手法では、優秀な人材の確保が難しくなってきています。
採用広報の役割と効果
従来の求人票だけでは分からない企業の職場環境や現場の雰囲気、また企業文化や風土などを伝えることは、自社の本来の姿に対する求職者の共感や理解につながります。そうすることで、企業のフィロソフィ(理念)や文化に合った人材が集まり、入社後の活躍やモチベーションアップ、離職率の低下などが図れるのです。
新卒採用に関しては、近年、就職活動におけるリテラシーの高い若者が多く、Webサイトの採用情報だけでなく、現場の生の声や実際の働き方やイメージ、どんな社員がいるのかなど、採用広報の発信内容には、リアルでタイムリーな情報が不可欠となっています。
今、採用広報として発信するべき6つの情報
①企業の社会的使命
企業において最も重要なのが社会的使命(ミッション)です。これは、企業の社会的存在感とも言えるもので、企業が社会のためにどんな貢献をしているのか、何を目的に事業活動をしているのかをまとめたものです。
②事業内容
広報担当者は社内で取り組まれている複数の事業を整理・横断して企業のベースとなる基本戦略を理解し、求人者に分かりやすく情報発信することも重要です。従来の求人票には事業内容が詳細に記載されていないケースも多々あるので、企業のビジョンや将来に向けた事業計画などを情報として発信するのも良い施策と言えます。
③求めているポジション
企業の中でどのようなポジションに就いて働くかは、求職者の人生設計を大きく左右します。企業が、今、求めているポジションはどんな部署のどんな職種か、ということもしっかりと明記しておかなければなりません。これは、新卒採用と言うよりは、むしろ中途採用における絶対必要項目です。
例えば、広報室を立ち上げるとして、そこの責任者として組織を束ねていく経験者を求めているのか、新設する広報室の一員として業務を遂行する人材を求めているのかを、しっかり明示することが重要です。
④求めている資格やスキル
今、企業が求めている仕事内容やポジションを明示した上で、求職者が応募するために必要な資格、経験、スキルなどもしっかり記載する必要があります。広告やIR、マーケティングなど専門性の高い分野は、実務経験者が欲しい場合があるため、企業は、求職者が戸惑わないように、求める人物像を具体的に表記しなければなりません。
企業が求める経験やスキルに見合った求職者が集まると、選考もスムーズに進み、何と言っても、入社した後のミスマッチがなくなります。
⑤企業文化、企業風土
企業文化とは、企業内で共有された価値観や業務行動から意識的に醸成された行動様式、またはルールのことを言い、企業風土とは、これまでに培われた社員の思考や行動に影響を及ぼす環境のことを言います。企業風土は、無意識のうちに形成され定着したものです。
これらのことを理解してもらうために、企業のフィロソフィ(理念)が含まれた社長のメッセージや、定期的に行われる社内行事の様子などを発信することが大事です。また、現場の社員のインタビューなどを掲載するのも良いでしょう。
採用広報の業務は、求職者全体の中から、自社のファンを増やすことが目的ですが、同時に、社員のモチベーションを上げることも重要な任務です。自分自身が企業風土とマッチし、企業文化を理解できるかを再確認してもらうことも重要です。
⑥待遇、及び福利厚生
採用広報において、待遇及び福利厚生の情報は非常に重要です。特に、次にあげる3つの項目は、入社後に認識のズレや解釈の誤差が生じやすい点なので、注意が必要です。
●勤務場所と勤務時間
近年はリモートワークの普及などで、勤務場所が一定でない企業が増えています。出社して会社で仕事をするのか、自宅でテレワークをするのか、あるいは、その両方を日にちによって使い分けるのか、など明確な表示が必要です。
また、訪問先やイベント場所への直行・直帰の有無や、フレックスタイム制が導入されているかなどの表記もしておくと良いでしょう。
●賃金と給与
賃金については、まず、毎月支給される基本給と手当を確認し記載することが必要です。基本給の中には“みなし残業代”が含まれている場合があります。基本給と残業代の関係もしっかり明記してください。通勤交通費の上限や、賞与や退職金についても記載しておくとベターです。
●休日と休暇
休日と休暇の表記で注意する点は、「週休2日制」と「完全週休2日制」の違いです。「週休2日制」は1ヵ月間に2日休みの週が最低で一度あり、それ以外の週は1日もしくはそれ以上の休みがある制度を言います。一方、「完全週休2日制」は、一年を通じて毎週2日の休みがあることを言います。
なお、こういった細かい労働規約などは、総務部や法務部に確認の上、表示することが必要です。
時代に即したデジタルメディアの利用
自社のホームページを初めとして、採用広報で使用される媒体(メディア)は様々ですが、今の時代性を反映してTwitterやFacebookといったSNSを利用することも考えてみる必要があります。SNSは気軽に参加でき、情報が拡散しやすいという利点を持っているため、採用広報には適しているかも知れません。各SNSの特性を十分理解した上で、適切な媒体を選定しましょう。
まとめ
冒頭でも述べた通り、労働人口の減少に伴い、今、人材採用は「売り手市場」となっています。受け身主体の採用手段だけでは優秀な人材獲得が難しくなってきています。今や、企業自らが能動的に情報発信し、自社を理解してもらい、より多くの求職者に応募してもらえるよう積極的に活動していかなくてはなりません。優秀で的確な人材を獲得することは、企業の発展や将来性に大きく貢献することにつながるのです。