この記事では、戦略PRの基本的な知識や活用方法を現役記者が解説してきます。
戦略PRという言葉が日本に伝わりだしたのは2009年後半でした。このとき仕掛け人となったのが本田哲也氏です。その著作である『戦略PR』によって日本中に戦略PRブームが訪れて、PRのニーズや価値観が知られるきっかけとなったのです。
しかし、それから15年近くの月日が経過して、PRを取り巻く環境も日々変化を遂げています。
そこで、ここではいわば現代の戦い方にあわせて、誰もが気になる「今求められる戦略PRとは」「戦略PRとマーケティングの連携」「戦略PRの具体的な活用方法」の3つについて、誰でもわかるように3分で解説していきたいと思います。
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戦略PRってそもそも何?一言(10秒)で表現するとこうなる

戦略PRとは、そもそも一言でいうとそもそもなんでしょうか。
広報やPRを行うさいに、戦略的に実施していない企業はないでしょう。
つまり、この場合の戦略PRとは、リリースを作成してメディアとコミュニケーションを図るという従来の広報の役割から一歩抜きんでて、その前段階から「(戦略的に)売れる空気作り」「(対象を)求める理由づくり」「(それらを後押しする)権威づくり」をしていこうというものになります。
これが世の中で「話題」となり、広告をしなくても自然と認知度や影響力が高まっていく流れを作る、というわけです。
■戦略PRを10秒(一言)でいうとこうなる!
- 戦略的に売れる空気作り
- 対象を求める理由づくり
- それらを後押しする権威づくり
戦略PRはなぜ求められるようになったのか?

このように、戦略PRはいわば、マーケティング活動の一環としてPRをおこなうことと少し似ています。
つまり、これまで社会との接点づくりだけだった広報を、より顧客創造や消費者を動かすマーケティングという概念をまとめたのが戦略PRとなります。
戦略PRがなぜ求められているのか?その背景を知るためにも、具体的に基本と実践のポイントを解説してきましょう。
理由1.戦略PRを実践するむずかしさ
戦略PRに関する議論で、クライアントからもっとも多い相談が、「どのように戦略を設定すればいいか」と「どのようにプロジェクトを動かせばいいか」といったものです。
最近は販売プロモーションに限らず、マーケティングのあらゆる面がデジタル化、あるいはデジタルコンテンツ化しています。この経営コンテンツのデジタル化に合わせて、戦略PR(Public Relations strategy)の視点も変わってきました。
理由2.戦略PRはもはや広報領域のものではない?
そのため、戦略PRがマーケティング活動の一環として行われるようになりました。そして、活動の主目的も、「認知を広げる」「空気をつくる」といった曖昧で抽象的な言葉から、「コンバージョンさせる」「情報をバスらせる」「消費者の行動変容をうながす」といったより具体的な言葉に変わってきています。
これは戦略PRの場合であっても、戦略上は顧客の創造や売上、あるいは集客数や来店スピードの増加に直結させる必要があることを意味しています。
理由3.PRはよりマーケティング分野に
本来、PR部門、としての投資額はコストリターンが大きいのが魅力でした。じっさい、P&Gの広報部門においては、マーケティングよりもPR活動による成果に数倍の価値が置かれています。
理由4.問われる戦略PRの実行力
しかし、マーケティング分野、とくにデジタル領域との連携にシフトするにつれて、予算も大きくケースが増えてきました。このため入念な「戦略設定」「プロジェクト管理」は欠かせないものとなっています。また、施策後には綿密な「測定」も求められるようになっています。そのために、より経営や事業戦略からPRを考えよう=戦略PRのニーズが高まってきたのですね。
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戦略PRの活用方法とは?より経営目線からを説明しよう

今度はさらに、もう少し上流の経営者視点で戦略PRを解釈してみましょう。
やや難しいですが、これを理解してこそ経営や新事業に活かせます。
理由1.自分ゴト化、仲間ゴト化、社会ゴト化とは
1990年に起こった戦略PRは、ストーリーづくりで「自分ゴト化、仲間ゴト化、社会ゴト化」するというのがコンセプトでした。デジタルマーケティングの加速や、SNSなどのソーシャルメディアの台頭により情報が氾濫する時代に、いかに生活者に振り向いてもらうかを意識するだけでなく、情報への接触の関わり方から消費者の気づきを引き起こして、最終的に関係性の強化を高めることを目指したものです。
このことから戦略PR、あるいは戦略的PRとは、企業の商品・サービスが獲得したい目標の達成や、好意的な関係を築くために全体戦略を俯瞰しつつ、最適なPR手段を駆使するハイブリッドなコミュニケーション活動だと認識できます。
理由2.情報クリエイティブ
そのために、商品やサービス、あるいはブランドが保有するファクトの整理と、社会環境に基づく現状分析をベースに手法を設計し、その目標に向けて強化すべき情報を明らかにして、伝えたい素材を集めてデザインしていかなければなりません。
これら一連の情報発信を、弊社では情報クリエイティブと呼んでいます。
しかし、現在はメディアもより複雑化しています。一昔前のように、絶大な影響力を持ったメディアはごく一握りしかなく、むしろメディアに露出するだけでは、その多様化の波に埋もれてしまい、多くの消費者に伝達することが難しくなっています。
結果、消費者の関心を高めるには、クチコミやバズ、あるいはシェアやレコメンドなどによる情報拡散を図るための工夫が不可欠です。「情報をニュース化する」から、「消費者をメディアにする」という変換が必要になってきているわけです。では、そのために具体的にどうすれば良いのでしょうか。
理由3.戦略PRの4つのマトリクスフレーム
その答えを見つけるため、弊社では長年の実践論を可視化して、メディア視点と消費者視点での情報の在り方を示す4つの段階(フェーズ)にまとめました。
弊社独自に戦略PRのマーケティングへのアプローチ手法を、4つの伝達レベルに細分化させたものとなります。
※情報伝達の4つのステージとフェーズ(出典:弊社フロンティアコンサルティングのセミナー資料より)
戦略PRを取り巻く5つの変化【最新版】
こうした背景には、2022年以降におけるYoutubeなどのSNSの対応やマーケティング環境における5つの大きな変化があると言えます。
1.SNSマーケティングのデジタル化
デジタル化にともないSNSなどのソーシャルメディアと接する機会が増えてきました。また、SNSは使っていなくても、手元のiPhoneやgalaxyなどのスマートフォンで、ニュースサイトをチェックしたことはあると思います。
2.Youtubeをはじめとする情報の大洪水化
これなども、デジタル化の台頭による現象です。総務庁の発表によれば、人がデジタルを通じて情報に接する量は、2025年には200倍になるとも言われています。
つまり、あとからあとから洪水のように情報が押し寄せてくる時代。これが、私たちの目の前にあるデジタル化という現象です。
3.生活者の変化
そうしたなかで、戦略PRの在り方、方法論も変化してきました。
「戦略PRを用いて、いかに消費者に振り向いてもらうか」だけではなく、「いかに生活者同士をお互いに結びつけるか」「いかに消費者に応援してもらうか」といつたコミュニティ設計を戦略に取り込む必要があるわけです。
4.戦略による行動変容へのニーズ
このような新しい工夫や、コンテンツ同士の結びつきにより、消費者や生活者の行動が変化する、いわゆる「行動変容」が生まれます。結果、最終的にリアルとデジタルの双方にて好感度や忠誠心(エンゲージメント)が高められ、購買につながるわけです。
そのためには、事前にやることを「成果」として意識することが不可欠です。
*参考:戦略PRのコンサルティングのフレームワークとは?
戦略PRはマーケティング統合型へ

プロダクトが弱く、差別化要素が低くても、実際には伝え方に戦略性を持たせることで、多くの消費者に購買行動を起こさせることができます。
具体的には、パブリックリレーションやインナーコミュニケーション(社内広報)に重きを置いていた広報業務を、よりマーケティングと連携させたPRにより、プロダクトの特徴に文脈を加え、消費者に「気づき」を与えるだけでなく、「伝える理由」を生み出し、クチコミやシェアが効きやすい世の中の「空気をつくる」、いわば戦略的PRの上位プロセスとアプローチが必要とされているわけです。
これを、わたちたちは「WHAT型のPR」から、「WANT型のPR」への変革と考えます。
このとき、とくに大切になるポイントが3つ挙げられます。それは、「第三者性」「ストーリー訴求」「文脈(コンテキスト)」の3つです。これらが、PRを戦略的に仕掛けて情報を作り出すための鉄則(セオリー)となります。
戦略PRの限界「結局、戦略PRは我々に何をもたらすのか」

スマートデバイスの急激な普及により、WEB上の情報や画像などのコンテンツを読者が再編集して届ける、いわゆるソーシャルメディアや、まとめサイトなどのキュレーションサイトといったアーカイブ型のデジタルメディアの増加に合わせて、PRやマーケティングにおける環境はさらに革新的に加速度を増しています。
そうしたなか、1890年代に一世を風靡した戦略PRという概念もまた、時代遅れになってきています。
1.メディア乱立時代の到来
誰もがその場で発信者になれるFacebook、Twitter、Instagramなどのシェアードメディアが登場し、手元のスマートデバイスでいつでもコンテンツを発信したり、シェアしたりできる時代において、メディアと消費者の関係がよりフラットになり、かつその距離が緊密になるのは必然的なことでした。
これまで、メディアと消費者の間には「情報を発信する側」と、「情報を受け取る側」といった、一方向で超えられない大きな壁がありました。これが、メディアが大きな力を持ち、マス・マーケティングが有効だった所以でもあります。この法則性があればこそ、メディアを活用したブランディングも有効でした。
しかし、今の消費者は違います。ソーシャルメディア、いわゆるシェアードメディアの普及によって消費者同士が結びつき、相互にネットワーク化して情報をシェアしていくという要素も加わることで、私たちはサービスや製品を選択するときに、そのブランドがどのような人に、どのような発信をされているのかを確認するようになりました。
2.疑似人格そのものが選択される時代
物やサービスの機能面だけでなく、その外側にいる消費者が作り上げた疑似人格、さらには企業の理想をかたちにしたブランド人格なども、選択基準にするようになったのです。
こうなると、ストーリーを盛り上げる課題啓発と、おすみつきによる客観性に依存した戦略PRだけでは、もはや消費者の《行動変容》は作れなくなりつつあります。
むしろ、新しいライフスタイルを創造する、チャレンジングでユニークな取り組みが、PRという客観性と共感性を持って消費者へ届けられることで、消費者との絆(エンゲージメント)が形成できるでしょう。
*参考:令和時代の新戦略PRの4つのキーワード
戦略PRのまったく新しい可能性を導き出そう

新しい情報に満たされ、常に忙しい(ビジー)の状態にある消費者。
これからの新しい戦略PRは、そうした消費者や生活者の『24時間の奪い合い』だという認識が必要です。
1.誰かに話したくなる物語をつくれ
オフィスの合間に、後輩とのランチで、バイト先のカフェで、あるいは家のソファで、他のどの情報よりも優先的に誰かに話したくなる、シェアしたくなる、そういたストーリーテリングに画像や映像を重ね合わせたコンテンツを織り交ぜることが、これからのPRの最大のテーマになるでしょう。
そのためのコンテンツ開発には、「ストーリーを創造する」というクリエイティブな側面と、人を触媒とするための「話しやすいシンプルさ」が強く求められます。
クリエイティブと言えば広告の領域であり、情報を正確にメディアに届けるだけであったこれまで広報に所属するビジネスパーソンにとっては、あまりなじみがあるものではありませんでした。
*参考:コンテンツのストーリーで消費者を動かせ!
2.ライブ感が戦略PRに深みを与えてくれる
しかし、ここで定義したコンテンツには、生活者の心をつかむ広告やアドバタイジングというより、よりシェアしたくなる、あるいは親密さを感じさせ、「ライブ感(生きる)」を体感・共存させるコンテンツに置き換わる《情報》と捉えることができます。
ここでもいわば、クリエイティブとソーシャルメディアの融合とも言えるハイブリッドなPRを実装させているわけです。
そして、それが実現できたときに、戦略PRでの情報拡散性は、より高い次元にて実現の可能性が高まると考えられます。
3.事例検証①戦略PRの成功事例「全日空」
戦略PRがコンテンツファースト化していく動きは、メディアコミュニケーションを意識したPRに限ったことではありません。
企業の広報活動ですら、すでに消費者との垣根はなくなりつつあります。優れたコンテンツはむしろ歓迎され、あるいはシェアされて双方向に情報を作り出すなどの創作のシーンが生まれ始めています。
これは、じっさいに航空運輸会社大手の全日空株式会社(ANA)で取り組まれた取り組み。2018年現在、200万人近くが「いいね!」を押し、シェアードメディアの活用事例としては一歩先をゆくANA広報室。公式のFacebookページのほか、シェードメディアとしてTwitter、Instagramなども完備、顧客との密なコミュニケーションを図っています。
掲載するコンテンツも航空機の写真の他な、世界各地の情緒溢れる風景が数多く投稿されています。また、普段は見ることができない機長目線での機窓風景、キャビンアテンダントの執務室の風景など、様々なコンテンツがまさに消費者目線で投稿されています。
※ANA公式Facebookより
これら広報室のコンテンツのコンセプトは「恋人感」。旅先の過ごし方を重視する消費者層の心を動かし、私にも関係があるブランドという導線を引き起こすにはどうすればいいか。その答えとして、ANAが広報室として表現すると決めた世界観です。
また、週の初めには「おはようございます」というテキストとともに、各地で働くスタッフの笑顔を掲載している点も見逃せません。このように、職場で働くスタッフの顔を見せることで、航空会社に欠かせない”安心感”を醸成しています。
企業広報は控えめに、はすでに過去の話です。あくまで自然に「安心に」「旅する」という思いを喚起させるANA広報とシェアードメディアの活用事例は、企業広報とそれ以外の情報のバランスの取り方を、巧みにアレンジした参考事例となります。
※ANA公式Twitterより