顧客起点のCVPとは?寿司屋とはネタでなく酒で儲ける商売である
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ブランディング
2020.04.26

顧客起点のCVPとは?寿司屋とはネタでなく酒で儲ける商売である

モノではなくコト作り

「日本人あるいは日本企業はモノを作るのはうまいけれど、ビジネスを作ってそこで勝つのは下手だ」というコメントを聞かれた方も多いことでしょう。

それに対するアンチテーゼとしてよく言われるようになったのがこのタイトルの言葉です。
つまり、いいモノを提供するだけでなく、ビジネスそのものを構想し、その中心に日本企業が位置取ることが大事だということです。

iPhoneという優れた製品を武器にしながらも、その周りにエコシステム(生態系)を作り、ユーザーに様々な便益、「コト」を提供して高収益を上げているアップルが一つのモデルだという方もいます。

現実的に世界を席巻した日本の産業を改めて思い起こしてみると、自動車やコピー機、電子部品など、ほとんどは品質とコストパフォーマンスで勝った製造業の製品が占めています。

◆日本型ビジネスモデルの行き詰まり

しかし、このビジネスモデルだけでは、行き詰まることは目に見えています。

かつて、日本が世界市場を席巻したDRAMは見る影も無くなってしまいましたし、日亜化学がリードしていた青色LEDも、コスト競争力に勝る新興国企業に追い上げられて、いつまで優位性を維持することができるかは不明です。

サービス業では、マクドナルドやスターバックスといったアメリカ発のビジネスがグローバルに規模化を進め成功しましたが、日本のサービス業がそこまで世界に広がった例はありません(公文教育研究会など健闘している企業は存在しますが)。こうした中で、日本企業はどのように考えていけば良いのでしょうか。

◆CVP(Customer Value Proposition)とは何か?

まずは、ビジネスモデルの考え方を改めて理解することです。
つまり、どのような顧客に対して、どのような価値を提供するべきかというCVP(Customer Value Proposition)をしっかり押さえ、それに合わせてその提供方法や利益の上げ方を考えていくということを、俯瞰的な視点を持ちながら行うのです。

*関連リンク:ビジネスモデルを作ったら広報PRで教えよう!プレスリリースの全戦略

 

CVP(Customer Value Proposition)の創造の仕方

ポイントは、顧客の根源的なニーズを改めて理解することです。単にモノを売る、サービスを売るという発想から脱却し、顧客にどのような嬉しさを提供すれば良いのか」を徹底的に考えることです。

その上で、日本企業にありがちな自前主義を捨て、アライアンスを活用し、効果的なエコシステムを作り上げることが大切です。エコシステムの多様な構成員の関心を知って、彼らが相互協力したり切磋琢磨したりする環境を作ることが、良きエコシステムの条件となるのでしょう。

日本企業では、まだ途上ではありますが、「楽天経済圏」構想を掲げ、グローバルにも展開しようとしている楽天にそうした発想が見て取れます。また、「金融は、本来、電気やガスと同じ公益剤だ。誰もがそれを使えるものである」という発想に立ち、M&Aなども通じてグローバルな金融プラットフォームになろうとしているマネックスグループも、単なるサービス提供からの脱却を志しています。

どうすれば世界に対して価値のある「コト」を提案できるかは、当面、日本企業に突き付けられた大きな課題であり続けることでしょう。

 

寿司屋とは、寿司で客寄せして酒で儲ける飲食店である

上で示したビジネスモデルの中で、「儲け方」を示すのが利益方程式です。

利益方程式や利益モデルなどと聞くと、「広告モデル」や「フリーミアム」(多くの顧客には無料で利用してもらい、一部ユーザーに有償版を買ってもらう)といった特徴的な課金方式をイメージされる方も多いかも知れません。

しかし、そういった特徴的な方法論を考える前にしっかりと検討したいのが、「どこで損を出しても良くて、どこでしかりと儲けるのか」「トータルとしてどのように利益を上げるのか」と言うことです。

タイトルの言葉は、そういった儲けのメリハリを考える必要性を示す際によく使われる事例です。実際に多くの寿司屋を見てみると、大トロのような高級ネタは儲かりません。価格も高いですが、それ以上に原価が高いからです。また、寿司について言えば、職人さんを採用したり育成する費用もかかります。

ネタの仕入れの手間暇もかかりますし、廃棄ロスも生じます。寿司ネタでは、利益額こそ低いものの、儲かっているのは納豆巻や玉子、ゲソというケースが大半です。その点、アルコールは極めて利益率の高い商材です。ビールの中瓶であれば300~400円程度の粗利が簡単に手に入るのです。手間暇もそれほどかかりませんし、熟練の技も不要です。せいぜい「冷やす」という付加価値を付けるだけで、これだけの利益が得られるのです。

我々消費者は寿司屋というと、「寿司を食べるところ」と考えます。しかし、利益方程式の観点から見れば、寿司(特に高級ネタ)は客寄せであり、実はアルコールで大きく稼ぐ店なのです。

新しいビジネスを構想する際に陥りがちな罠は、あらゆる商材、あらゆる顧客でまんべんなく儲けようという事です。そうではなく、こうしたメリハリを適切に付けることが、実はトータルとしての収益性確保には有効であるということを意識してみて下さい。

 

まとめ モノはビジネスモデルに過ぎない

モノはビジネスモデルの一部に過ぎないということを学びました。また、儲けのメリハリをしっかり考えることが重要であるということを学びました。


執筆者・監修者
上岡正明
経済記者・経済コメンテーター
戦略PRプランナー・著書26冊累計105万部のビジネス作家
登録者25万人のYoutuber
上岡正明

MBA(多摩大学院経営情報学修了)
テレビコメンテーター
多摩大学客員講師(18,19)
帝塚山大学客員講師(19)
登録者24万人のビジネス系YouTube

「スーパーJチャンネル」「めざましテレビ」「王様のブランチ」「クイズミリオネア」等の元放送作家。日本を代表するPR戦略の専門家で、企業広報のスペシャリスト。未上場から上場企業まで戦略PRを手掛けたクライアントは300社以上。

広報ブランディング、新規事業構築、外資系企業の国内イベント、海外プロモーション支援のコンサルティング会社代表。現在まで約20年間、実業家として会社を経営。これまでに三井物産、SONY、三菱鉛筆、日本瓦斯など200社以上の広報支援、スウェーデン大使館やドバイ政府観光局などの国際観光誘致イベントなどを行う。

代表的なコンサルティング案件としては、日本中の女性たちの心を動かした「表参道のパンケーキブーム」、1年で200万台以上を売り上げた「ふとん専用掃除機レイコップ」、世界が注目する食イベント「肉フェス」、1カ月で6000万人(日本の約半分)にバズらせた「ジャポニカ学習帳“昆虫の表紙が変わった?”」がある。

経営と並行してMBA(情報工学博士前期課程)取得。東京都中小企業振興公社講師。成蹊大学、多摩大学、帝塚山大学の客員講師。東洋経済新報社、ダイヤモンド社、朝日新聞出版社、PHP出版、総合法令出版社、アスコム社、大和出版、すばる舎、宝島社から累計21冊80万部の著書を上梓。

日本神経心理学会、日本行動心理学学会、行動経済学学会、一般社団法人日本行動分析学会、日本社会心理学会、一般社団法人日本小児心身医学会、認知神経科学会の各学会員。

日経ヴェリタス・東洋経済オンライン・ダイヤモンドオンライン・プレジデントの4大経済メディアで専門家として記事連載もおこなっております。お読みになりたい方はこちらからご覧下さい。

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